佐藤隆宏
(財)電力中央研究所 地球工学研究所 流体科学領域
【 はじめに 】
我が国のダムの歴史はため池に始まる.岡野1)によると,ため池においても堆砂は問題となっており,非灌漑期に土砂吐き門扉から排砂したり,農地へ客土したりした記録が残っている.一方,ため池の堆砂対策については記録が残っていないものの,同じ河川流域内で堰堤の嵩上げやため池の新規築造が次々と行われた記録は残っており,新たな利水需要への対応や治水安全度の向上とともに堆砂による貯水容量減少も補ってきたと推測されている.
一方,近代以降の大型ダム貯水池の堆砂については,1950年頃からダム貯水池流入端の治水問題として社会問題化し,主に「貯める」貯水池土砂管理が行われた.すなわち,堆砂の進行状況をモニタリングしつつ,堆砂の進行が計画を上回る場合にそれを除去する対策が行われた.また1990年代に入ると,より恒久的な堆砂対策として,フラッシング排砂やスルーシング排砂,土砂バイパスなど「流す」貯水池土砂管理が行われるようになった.
このように長い年月にわたり堆砂問題に取り組んできたにも関わらず,ダム貯水池堆砂には課題が多く残されている.その主な理由として,予測困難な洪水時の多量の土砂流入によって堆砂が大きく進行するため,計画的な堆砂対策の効果が見えにくく,非計画的事後保全のウェートが大きくなること.堆砂の形態が各ダム貯水池によって異なるため,各種堆砂対策技術が一律に適用出来ないこと.ダムからの土砂排出に対して,下流河川の環境影響や改善効果を定量的に示すことが難しいため,下流の河川利用者の抵抗感をぬぐいきれないこと.そしてこれらを含め,堆砂対策に対する投資の効果が見えにくいことなどが挙げられる.
本講座の第 1, 2 回では,ダム貯水池へ流入する土砂とダム貯水池における堆砂について,主に粒径とその空間分布に注目しながら,これらの形態と評価技術の概要を紹介した.第 3 回となる本稿では,それらを踏まえた上で,ダム貯水池の堆砂対策技術の概要を紹介する.
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